ウェルビーイングとは何か?ウェルビーイングは欧米で生まれた考え方のため、国内企業が経営に取り入れる上では誤解がおきやすい概念です。企業がウェルビーイングを経営や施策に取り入れ、期待する効果を生み出すには、本質の部分を正しく理解することが欠かせないでしょう。参考:中小企業を飛躍させるウェルビーイング経営の可能性 | YuLife 「ウェルビーイング(Well-being)」とは単なる「健康」や「幸福」ではなく、もっと広く深い概念です。 WHO(世界保健機関)は、健康を「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と定義しているように、単なる疾病の有無を超えた包括的な人間の状態を指しています。ウェルビーイングをより具体的に理解するためには、ポジティブ心理学の推進者の一人であるマーティン・セリグマンの「PERMAモデル」も参考になるでしょう。参考:PERMA/ポジティブ心理学:ウェルビーイングの状態とは?| 青山学院大学また、OECDの「How’s Life? 2017- MEASURING WELL-BEING」では、個人のウェルビーイングには11の要因が関与していることを指摘しています。「ウェルビーイング」の概念についてさらに詳しく知りたい方はこちらなぜ今、従業員のウェルビーイングが重要なのかウェルビーイングが注目される背景には、社会や労働環境の大きな変化と関連があります。パンデミックと働き方改革の影響新型コロナウイルスの流行によって、働くことの意味や職場との関係を見直す大きなきっかけとなった方も多いのではないでしょうか。テレワークの普及や多様な働き方への関心が高まり、個人の「心と体の健康」や「生活の質」に企業も改めて目を向けるきっかけとなりました。健康経営の進展とエンゲージメントの重視経済産業省が推進する「健康経営」の流れでは、従業員の健康が企業価値の向上につながるという認識が広がっています。また、幸福度の高い従業員は、幸福度の低い従業員よりも創造性が3倍高く、創出する売り上げも37%高いことが研究で明らかになっています。さらに、従業員の健康経営に取り組む企業は、そうでない企業と比べて離職率が半分以下であることも判明しているなど、ウェルビーイングの向上は企業の経営戦略にとって欠かせないものとなっています。参考:Lyubomirsky, King, Diener「The Benefits of Frequent Positive Affect : Does Happiness Lead to Success?」データから見える「幸福」と「生産性」のつながり2023年のOECD加盟国の労働生産性と幸福度の相関関係の調査結果から、労働生産性の高い国々は幸福度ランキングも上位に位置していることが分かります。それに対して、残念ながら日本は労働生産性、幸福度ともに決して高いとはいえません。参考:労働生産性の国際比較 2024 | 公益財団法人 日本生産性本部 World Happiness Report 2023また、約3,000社の国内中小企業のうち、人手不足が「深刻」「非常に深刻」と回答した人は全体の約64%にのぼりました。ウェルビーイングへの投資を後回しにしてしまうと、日常的なストレスの蓄積や、バーンアウト(燃え尽き症候群)といったリスクが高まるおそれもあります。一方で、ウェルビーイングに投資することは、従業員の生産性やエンゲージメントが高まり、結果的に企業の利益の向上にもつながっていきます。ウェルビーイングへの投資効果について詳しく知りたい方はこちら経営戦略としてのウェルビーイング人的資本の開示が義務化されるようになり、従業員の健康やモチベーション、スキルといった要素は、財務情報と並ぶ重要な「経営資源」として評価されるようになっています。経営資源の基盤となっているのがウェルビーイングです。ウェルビーイングを整えることで、生産性・創造性・定着率の向上などの効果も大いに期待できます。そのため、「福利厚生の一環」としてではなく、離職防止や人材確保、企業価値の向上を意識した「戦略的ウェルビーイング施策」が最近は求められるようになってきています。ウェルビーイングを高める5つの施策では、企業はどのような施策を講じれば良いのでしょうか?ここでは実行可能で効果の高い具体的な施策を5つご紹介します。1. 心理的安全性の高い職場づくりGoogleの「Project Aristotle」による研究でも伝えられているように、心理的安全性はチームの生産性や創造性を高めるための重要な要素となっています。調査チームの研究によると、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」が、成果に大きく影響することが発表されました。そして、チームの成果を出す力の指標である効果性に影響する因子として、以下の5つが特に重要とされています。中でも特に重要なのが「心理的安全性」です。心理的安全性が高いチームでは、メンバーの離職率が低く、他のメンバーが発案した多様なアイディアを活かし合おうという前向きな傾向が見られます。さらには、収益性が高く「効果的に働いている」とマネージャーから評価される割合が、他のチームの2倍という特徴があります。「失敗しても非難されない」「意見を言っても否定されない」。そのような職場づくりを実現するためには、信頼の醸成、傾聴・承認などを学ぶマネジメント研修を管理職が行うことなども有効でしょう。2. 柔軟な働き方の推進(ハイブリッド勤務・フレックス制など)柔軟な働き方は、ワークライフバランスの向上や通勤ストレスの軽減につながります。オフィス出社と在宅勤務のハイブリッド勤務やフレックス制度を導入することは、従業員の裁量感や満足度を高める効果があります。一方で、ギャラップ社の「グローバル職場環境調査」によると、100%リモートワークやハイブリッド勤務をしている従業員は、フル出社勤務の従業員よりも、ストレスや怒りを感じやすいという報告もあるので注意が必要です。つまり、勤務制度を整えるだけではウェルビーイングの向上には十分でないということです。従業員との対話を重ねて、一人ひとりがどんな働き方を望んでいるのか理解し、それぞれに合った働き方を一緒に考えていくという姿勢が大切ではないでしょうか。 3. セルフケア・メンタルヘルス支援の拡充EAP(従業員支援プログラム)やカウンセリングサービス、メンタルヘルスに関する教育などの仕組みを整えることは、心の健康の自己管理を促すことにもつながります。 ウェアラブル端末やメンタルヘルスアプリを活用して、従業員が気楽に取り組めるセルフケアの方法も最近では広がっています。厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策の現状等」によると、2022年時点での「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合」は50人以上の事業所で91.1%でしたが、10~29人の事業所では55.7%にとどまっていました。ストレスチェックの実施状況でも、50人以上の事業所では84.7%であるのに対して、50人未満の事業所では32.3%に過ぎませんでした。こうした調査結果から、中小企業のメンタルヘルス支援を拡充することが今後取り組んでいかなくてはいけない課題であることが分かります。4. リスキリングとキャリア自律支援経済産業省によると、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」とあります。「学び続けられる環境」があることで、自己効力感や未来への希望が高まり、精神的ウェルビーイングの向上にもつながります。個別のキャリア面談やリスキリングのための社内研修、スキル評価制度の導入がポイントとなってきます。5. 従業員同士のつながりとエンゲージメント促進組織内の信頼関係や帰属意識は、社会的ウェルビーイングの基盤です。組織が目指すべき形としてDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)を重視する「DE&I」という概念が日本でも浸透しつつあります。さらに、「Belonging(帰属意識)」も加えた「DEI&B」という考えへと最近はシフトしてきています。 オンラインとオフラインを組み合わせた社内イベントを開催したり、ピアボーナス制度やボランティア活動への参加を推進することでも効果が期待できます。これらの取り組みを通してどのように従業員の活力を引き出すことができるのか、具体的な事例についてはこちらをご確認ください。ウェルビーイング施策導入のポイントと注意点施策の一貫性と経営陣のコミットメント一時的に取り組んでみても、効果は長続きしにくいでしょう。企業の価値観やビジョンと施策ををしっかりと結びつけ、経営者自らが自分の言葉でメッセージを発信し、行動することで、全社的な取り組みへと広がるカギとなります。測定とフィードバックの仕組み定量的・定性的な測定をバランスよく組み合わせることが施策の検証には大切です。例えば、エンゲージメントサーベイや健康診断の受診率といった数値に加えて、1on1での定期的なヒアリングや社内SNSで声を拾うことも有効でしょう。取り組みの有効性を定期的に検証しながら、PDCAサイクルを回していくことが求められます。パーソナライズされた施策設計従業員のライフステージや価値観は以前と比べて多様化が進んでいます。「全員に同じ施策を提供する」のではなく、若手・子育て世代・シニア層など、対象に応じた柔軟な選択肢を提供することがカギとなります。たとえば、福利厚生のポイント制度の導入や、健康支援や学習支援、余暇支援など多岐に渡る選択肢を用意して、従業員が自分に合った使い方を自由に選べる仕組みが有効です。中小企業のウェルビーイング対策に関するQ&Aそもそも「ウェルビーイング」とは何ですか?福利厚生と何が違うのでしょうか?ウェルビーイングとは「身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること」を意味します。単なる健康管理や福利厚生ではなく、従業員が「いきいきと働き、人生に満足感を持てている状態」を目指す考え方です。福利厚生もその一部に含まれますが、ウェルビーイングはより広い視点から人の幸せや働きやすさを支える概念といえるでしょう。実際に効果はあるのでしょうか?ウェルビーイングの向上は、離職率の低下や定着率の改善、生産性の向上などに直結しているといわれています。たとえ小さな取り組みでも、従業員が「自分は大切にされている」と感じられることが、結果として業績や組織力の向上につながっていきます。従業員に響くウェルビーイング施策にするには?「一律の施策」ではなく「選択できる施策」がカギです。 従業員の世代・ライフステージ・家庭事情は多様です。ですから「運動習慣支援」「資格取得サポート」「家族介護支援」など、複数のメニューを用意して、従業員自身が自分に合ったものを自由に選べるようにすると満足度が高まるでしょう。まとめ従業員のウェルビーイングは、企業が持続的に成長していくための大切な土台です。バランスよく身体的・精神的・社会的、そして経済的な側面を整えて、単なる「健康支援」ではなく、働く意味や人生の充実感にも目を向けた取り組みで効果が期待されます。心理的安全性、柔軟な働き方、メンタルヘルス支援、キャリア支援、エンゲージメント向上などのテーマを組み合わせて、効果的な測定やフィードバックをする体制を整えることで、企業文化も進化しながら、従業員一人ひとりの幸せを支えることにもつながるでしょう。★「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。YuLifeのサービス概要はこちらYuLife導入事例集はこちら 働きがいのある組織の共通条件とは