離職の背景にある“見えにくい不満”とは?統計で見る離職理由の上位項目厚生労働省の「雇用動向調査(令和5年版)」によると、個人的な理由で離職した方々が挙げた主な理由は以下の通りです。男性、女性ともに「職場の人間関係が好ましくなかった」が最も多く、他の項目を上回っています。参考:令和5年雇用動向調査結果の概況 | 厚生労働省こうしたデータから見えてくるのは、離職の背景には「金銭的な待遇」だけでなく、職場の人間関係や働き方への納得感といった、目に見えにくい“働く価値”が大きく関わっているということです。給与だけでは引き止められない理由この調査結果からも明らかなように、「給与を上げれば人は辞めない」という考え方は、もはや通用しづらくなっています。特にミレニアル世代やZ世代にとっては、「自分の価値を認めてもらえている」「ここで成長できる」といった心理的な報酬や、ワークライフバランスの充実が、働き続ける理由になっています。また同じ調査では、「労働時間や休日など、働く環境への不満」を理由に離職した人の割合が、若い世代ほど高い傾向にあることもわかりました。出典:令和5年雇用動向調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/gaikyou.pdf)をもとに作成このように、日本全体で人手不足が深刻化するなか、企業のリテンション戦略においては「給与だけでは不十分」というのが現実です。これからは、職場の人間関係の質や柔軟な働き方の選択肢、キャリア成長を後押しするサポート体制など、総合的に「働きやすい環境」を整えることがより一層求められます。離職防止につながる福利厚生の考え方「福利厚生=制度」ではなく「体験」として設計する制度を整えることや、選択肢を増やすこと自体が目的になってしまうと、なかなか従業員の満足にはつながりません。大切なのは、「会社が本当に自分たちのことを考えてくれている」と従業員が実感できるかどうか。つまり、“制度に心がこもっているか”が大きなポイントになります。「どんな想いで制度をつくったのか」「会社として何を大切にしているのか」が伝われば、従業員もその想いに共感し、企業の価値観を自然と感じ取ってくれます。たとえば、定期的な健康診断の実施に加えて、ウェアラブルデバイスと連動した健康管理アプリの導入や、フィットネス補助と連動した社内イベントの開催など、日常に寄り添った仕組みがあると、参加率や満足度も高まりやすくなります。さらに近年では、「心理的安全性」を意識した環境づくりも見逃せません。メンター制度やサンクスカードといったインナーコミュニケーションの取り組みも、広い意味での福利厚生と捉え、制度としてきちんと設計・運用していく視点が求められています。福利厚生は、単なる制度導入ではなく、“どんな体験として従業員に届くか”がとても大切です。一つひとつの制度に込められた目的や想いがしっかりと伝わることで、従業員のウェルビーイングを高め、企業への信頼感や定着にもつながっていくでしょう。「制度疲れ」を防ぐ運用体制とは制度が“あっても使われないもの”となってしまう大きな原因のひとつは、「導入したら終わり」という姿勢にあります。どんなに良い制度でも、導入後の運用や見直しがされなければ、次第に従業員の関心も薄れてしまうでしょう。制度を“生きた仕組み”として機能させるには、導入時の想いを大切にしながら、利用状況を定期的に見える化し、必要に応じて柔軟にアップデートしていく姿勢が欠かせません。たとえば、ある制度の利用率が極端に低い場合、それは見直しや新たな可能性を探るべきサインかもしれません。しかしその裏に、「制度の存在がうまく伝わっていない」「実際の使い勝手がよくない」といった別の課題が隠れていることもあります。利用者からのフィードバックを制度改善に生かす仕組みがあれば、形骸化を防げるだけでなく、「会社はちゃんと自分たちの声を聞いてくれている」という信頼感にもつながります。制度の今後のあり方を適切に見極めるためには、データと従業員の声、両方に耳を傾けましょう。制度は、一度つくって終わりではありません。運用と改善を重ねるプロセスこそが、制度そのものの価値を高め、やがては企業文化として根づいていく土台になります。従業員の定着率が高まる福利厚生の特徴①キャリア支援型の福利厚生人材育成は、離職防止の観点からも非常に重要な要素のひとつです。これまで多くの企業では、事業戦略の実現がミッションの中心にあり、従業員はその目的のために役割を果たす存在とされてきました。その結果、どうしても個人のキャリア形成や自己実現は後回しになりがちで、やりがいや成長実感を持てずにモチベーションを失ってしまうケースも少なくありません。しかし今、働く人々の価値観は大きく変わりつつあります。「組織のために働く」から「自分の人生の一部として働く」へ──。そうした意識の変化を受けて、企業側にも“個のキャリア”を尊重した環境づくりが求められています。従業員が「ここで働きながら成長できる」「自分の可能性を広げられる」と感じられる職場は、自然とエンゲージメントも高まり、離職防止や組織の活性化にもつながります。そのためには、以下のような福利厚生を設計してみましょう。資格取得補助制度社外研修への参加支援メンター制度副業支援こうした取り組みは、従業員に「自分の市場価値が高まっている」「会社が自分のキャリアに本気で投資してくれている」と感じさせることにつながります。特に若手の従業員にとっては、自分の成長を実感できるかどうかが職場に対する満足度に大きく影響し、それが結果的に離職の抑制にもつながっていきます。だからこそ、「ここで働けば成長できそう」「将来に向けて力をつけられそう」と前向きに思ってもらえるようなキャリア支援型の福利厚生が、今の時代にはとても効果的なのです。②生活支援型の福利厚生生活の安定は、将来への不安を軽くし、安心して働き続けられる環境づくりの大きな支えになります。それを実現するためには、次のような制度が挙げられます。住宅手当、家賃補助社宅制度保育料補助、育児支援ファミリーイベント最近では、地方企業や中堅企業においても、地元での定着率を高めるために、こうした支援制度を積極的に整える動きが広がっています。③メンタルヘルス・健康支援パーソル総合研究所が2024年8月に実施した調査によると、過去3年以内に、「治療なしで日常生活が困難なほどのメンタルヘルス不調を経験した」正規雇用者は14.6%でした。特に若年層ほどメンタルヘルスの不調を経験している割合が高く、20代男性では18.5%、20代女性では23.3%に達しました。出典:若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査(パーソル研究所)https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/young-mental-health.html若手の従業員の離職を防ぎ、責任が大きくなる中高年管理職の精神的な負担を減らすためには以下のような福利厚生制度を活用しましょう。産業医の設置メンタルヘルス相談窓口リフレッシュ休暇フィットネス補助健康アプリの導入(例:FiNC、CARADA)健康アプリについてより詳しく知りたい方はこちら従業員が「気軽に相談できる」「健康で働ける」と感じる環境は、定着率に直結します。経済産業省の「健康経営®*優良法人認定」などの取り組みも追い風になっています。*健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。④柔軟な働き方と時間制度ご紹介してきたように、「労働時間」や「休日」といった労働条件は、性別を問わず、離職を考える際の大きな判断材料となっています。だからこそ、働く人それぞれのライフスタイルや価値観に合わせた“柔軟な働き方”の導入は、離職防止においても非常に効果的です。実際に、以下のような取り組みを進めている企業では、従業員の満足度や定着率が高まる傾向が見られます。リモートワークの選択肢フレックスタイム制度時短勤務週4勤務制度特にコロナ禍以降、柔軟な働き方はスタンダードとなりつつあります。物理的な「通勤」や「定時」に縛られない働き方が、ワークライフバランスを保つことにつながるでしょう。⑤従業員同士の関係性を育む制度職場で従業員同士の「つながり」を感じられる環境は、孤立感を和らげ、心理的安全性を高めるうえで大きな効果があります。特にハイブリッドワークやリモートワークが定着してきた今だからこそ、「気軽に雑談できる関係性」をどう育むかが重要なテーマになっています。そうしたつながりを育てるために、以下のような制度や取り組みが注目されています。ウェルカムランチサンクスカード制度社内報・バースデー制度シャッフルランチ事例紹介:福利厚生で離職率が改善した企業これまでに紹介した福利厚生を導入した中小企業の事例を3つ紹介します。株式会社いせん:旅館事業の枠を超えた多能工化で生産性を向上出典:株式会社いせん(https://isen.co.jp/)新潟県南魚沼郡湯沢町で旅館業を営む株式会社いせんは、慢性的な人手不足に悩んでいました。生産性を向上させるべく、業務の見直しに加え、多能工化(=一人が複数の業務を担える仕組み)を積極的に推進することで、事業の枠にとらわれないより柔軟な働き方や勤務体系を選べる環境づくりに取り組みました。また、「キャリアアッププログラム」として、自身の興味ある分野を延ばしたり、いままで知らなかった分野に興味を持つ機会をつくったりしました。従業員の柔軟な働き方や勤務体系の環境ができた結果、10年間で売上・従業員数は3倍に成長しました。株式会社キャリア・マム:ライフスタイルに合わせた勤務制度出典:株式会社キャリア・マム(https://isen.co.jp/)株式会社キャリア・マムは結婚や出産を機に離職した女性たちが、ライフイベントが一段落した後にも活躍できるよう、在宅ワークを提供するべく立ち上げられた企業です。時間の制約が大きい主婦が主体の事業であるため、従業員のワークライフバランスへの取り組みは必然でした。同社は、本人の希望により、ライフスタイルに合わせた勤務場所と勤務時間数を選択できる柔軟な勤務体制を採用しています。通常通り出勤する従業員も、フレックスタイムや1時間ごとに取得可能な有給休暇制度を導入しており、自由度の高い働き方が可能になっています。さらに、働く場所や時間に関係なく、成果に基づいて公正に評価される制度を整えています。例えば、時短勤務の正社員でも成果に応じて他の正社員と同じように賞与が支給されます。このように従業員のライフスタイルに寄り添う柔軟な働き方を打ち出すことで、離職の防止に繋がるだけでなく、新たな人材の確保も実現させています。株式会社ジェイツ・コンプレックス:出産・育児支援制度出典:J2 COMPLEX(https://www.j2complex.co.jp/)株式会社ジェイツ・コンプレックスは広告業という業種から、長時間勤務やなかなか休みづらい状況が重なり、結婚や出産を機に職場を去る女性従業員も多く悩ましい状況でした。女性が「長く働けない職場」から「ずっと働きたい職場」にするために、「子育て伴走制度」「家の近く会議」「子ども社員室」などの制度を導入しました。これらの制度を導入することで、若手従業員の中でも「会社を辞めずに復帰できる」という将来像がイメージしやすくなり、自然に職場へ戻りやすい環境が整いつつあります。参考:中小企業・小規模事業者の人手不足対応研究会 中小企業・小規模事業者の 人手不足対応事例集 | 経済産業省福利厚生を見直す際のチェックポイント働き方の多様化が進む中で、企業がポテンシャルの高い人材を惹きつけ、定着させるためには、福利厚生の見直すことが欠かせません。形だけで終わらない「良さ」を実感できる福利厚生の制度を設計するための4つの視点をご紹介します。全従業員を対象としたアンケートの実施安易な制度導入は「現場の需要」とかけ離れた福利厚生になりがちです。そうならないためにも、まずは従業員を対象にしたアンケートの実施から始めることをお勧めします。従業員のニーズを定量的に把握することで、的外れな制度導入を防げるだけでなく、導入後の効果測定にも活用できます。定点観測としてアンケートを毎年実施する企業も増えています。ライフステージや世代に応じたメニュー設計全従業員に一律の制度を提供するのではなく、世代やライフステージに応じた支援を提供することが求められています。たとえば、若手従業員にはスキルアップ支援や住宅補助を、育児・介護世代には柔軟な勤務制度や支援金制度といったように、従業員それぞれの状況に合わせた制度設計が有効です。多様な働き方を意識して制度を設計することがカギとなります。人事部門だけでなく「現場」の巻き込みも重要制度は「作って終わり」では大きな効果は期待できないでしょう。導入後も継続的に改善していく体制こそが、制度を根付かせるポイントです。そのためには、現場の従業員との対話が欠かせません。人事部門だけで完結せず、部門横断のプロジェクトチームをつくったり、現場の声を取り入れる仕組みをひく企業も増えています。コストと効果を見える化し経営層へ提案福利厚生の見直しや新制度の導入には一定のコストがかかるのも事実です。だからこそ、経営層に対しては、制度の目的だけでなく、「定着率向上」や「生産性改善」、「企業価値向上」などの具体的なメリットやリターン、投資対効果を示すことが重要です。福利厚生を経営戦略と結びつけて提案することで、企業全体の方向性とも整合が取れ、トップの理解と協力を得やすくなります。まとめ:「制度」から「投資」へ―自社らしい福利厚生を考えよう福利厚生は、単なる「制度」ではなく、企業の持続的な成長を支える重要な「投資」のひとつです。働く場面だけでなく、従業員の生活や将来にも寄り添った制度設計こそが、人材の定着と活躍を後押しします。変化の激しい今の時代だからこそ、過去の成功事例や同じような仕組みをなぞるのではなく、自社の価値観や風土を活かした“自分たちらしい福利厚生”を再設計することが求められています。「ここでなら安心して働き続けられる」「この会社と一緒に成長したい」――そう思える環境をつくることが、企業の魅力を高め、未来への可能性を大きく広げる第一歩につながっていくでしょう。YuLifeのサービス概要はこちらYuLife導入事例集はこちら